集積所

てきとうに文章を書いたりします

卒業旅行記①

 

はじめて一人で飛行機に乗って海外に行く。出発予定の便がずらっと表示されている電光掲示板を見て、予定よりも二十分出発時刻が早くなっていることを確認した。それでも搭乗まで二時間以上あった。喫茶店で飲み慣れた紅茶をテイクアウトし、空港内をうろうろと散策した。成田空港に来るのははじめてではないけれど、高校の修学旅行でニューヨークに行った時以来ここに来たことはない。飲食店はすでに閉まっているところばかりで、暗くなった店内を覗いて、それからディスプレイのメニューの価格を一瞥し、空腹感は出発に向けて少しずつ消えていくだろうと期待した。それに、機内食が離陸後すぐに提供されるとどこかに書いてあった気がする。

 

大きくも小さくもないスーツケースを、閑散とした搭乗手続きのカウンターに預けた。帰りのチケットを提示するように言われたので、スマートフォンに保存してあるオンラインチケットの画面を見せた。

「帰りはチューリッヒ空港ですね。」

「はい、そうです。」

「スーツケースはスルーバゲージになりますのでドーハでお受け取りの必要はありません。」

「わかりました。」

最悪スーツケースがなくても二日間くらいは向こうで困らないよう、背中のブラックダイヤモンド社製のバックパックには薬や着替えを入れてある。しかし雪山用の靴や服はスーツケースの中に入れるしかなかったため、コンベアで運ばれていくそれを目で追いながらロストバゲージにならないように祈った。

搭乗口までの長い動く歩道でペットボトルの水とのど飴を買おうと決め、売店に寄り、消費税が書かれていないのを見てじっと立ち止まった。免税ってやつだ。出国手続きはパスポートをかざしてゲートを通過するだけでよかったので、今の今まであまり出国感がなかった。

 

指定されたゲートの前のベンチに腰掛け、大きな窓越しに見える機体を見た。コックピットの窓がパンダの目の周りの模様みたいで可愛くて、なんとなくスケッチブックにその形を描きとめた。それもすぐに描き終わってしまって、暇になった。搭乗までまだ一時間もある。スマホで両親と連絡を取っていると、次第にベンチは埋まりザワザワとした雰囲気になっていった。他の客は家族連れやグループが多く、一人でいる人はちらほらいるくらいで、でもまあちらほらはいるわけだし(おそらく海外に行き慣れている人ばかりに見えるが)一人でもきっとなんとかなるだろう。

修士論文を書き終えてまず、(留学とかではなく)海外に行くことを決めた。頭の中で一番行ってみたい場所を思い浮かべてみると、そこには山があったので、まずどの山に行くかを決めることにした。しかしどうせ海外に行くならいろんな場所に行きたいと欲が沸々と湧いてきて、結局ヨーロッパを鉄道で縦断するというありきたりな計画になっていた。

 

 

サント=ヴィクトワール山(Montagne Sainte-Victoire)

フランス南部のエクス=アン=プロヴァンスの南東部に位置する山。石灰岩で出来ている。全長が18km以上ある。最高点はピックデムッシュ。1011m。