集積所

てきとうに文章を書いたりします

私と兄の罪

 

昔住んでいた家に警察が来ていた。

私と兄はダイニングテーブルに紅茶とクッキーを用意して、刑事を迎え入れた。

 

先日亡くなった■■■君についてなんだけど、と刑事は言った。同じ学校だよね、何か知ってることはないかな、などと言いながら、多分私たちを疑っているんだろうということはすぐわかった。

兄は、少し喋るくらいの仲でしたけど、■ヶ月前から様子がおかしいなとは思いました、などとしらばくれ、私もそれに同調するように頷いた。

続けて私は■■■についての情報をもう少し話して、さも詳しいことはこれくらいしかわからないということをアピールしようかと思ったが、ボロが出そうでやめた。柔らかそうな人柄の刑事の目つきが、奥の方で鋭くなっていたのを感じたからだ。

 

私たちは■■■を殺したらしい。それは間違いなく事実だ。しかし、どうやって殺したのかはわからない。なぜなら私たちが直接手を下したわけではないからだ。

自ら命を絶った■■■以外にもこれまで何人もの人間が、私たちのいる学校で死んでいる。

全員私たちが殺した。

だけど、わからない。どうやって殺したのかも、なぜ殺したのかも。

だったらどうやって私たちが殺したということが証明できようか。

私は兄に言われるがままにずっと動いてきたけれど、その行為が殺人またはそれに準ずるような行為であったことは一度もない。

だから、自分でも理解していない私の罪を隠して必死にしらばくれているのだ。なんて滑稽なんだろう。

 

暫くすると刑事はまた来ますと言って部屋を去った。私は少し安堵し、兄にどうするの?と尋ねた。これまで警察が学校に来ることはあっても、刑事が私たちの家まで来ることは決してなかったから、きっと誰か私たちが怪しいということを警察に証言したりしたんだろう。

兄と私は少し声を小さくして、あの学校はもうやめようか、引っ越そうか、はたまた燃やそうか、などと相談した。

その時、玄関のドアがガチャっと開いた。私は身体をビクつかせながら、刑事が戻ってきたのかと怯えた。

しかし刑事ではなかった。義父が酔ってフラフラで帰ってきただけだった。

動悸が少しおさまった。安堵のせいかいつもよりいっそう義父を手厚く介抱した。お父さん、大丈夫ですか、お夜食にしましょうか。私は義父をお父さん、と呼んでいた。外はまだ明るかった。

 

 

何日か過ぎて、私は1人野原で考え事をしていた。兄はなぜあんなことをしているのだろうか、なぜ詳しいことを私に教えてくれないのだろうか。

奥の方では戦争が始まっていた。小さな小さな領土を巡るくだらない戦争だ。私はもっと近くで見ようとして歩みを進めた。空は重たく、今にも落ちてきそうだった。

銃撃戦を目の前にして、それをぼーっと眺めていると、雨が降ってきた。

すると、そこにいた何万人もの兵士のうち半数以上が、バタバタと倒れ眠りについていた。穏やかで幸せな夢を見ているような表情だった。

残った半数はというと、驚きもせず、そこに立っていた。そして、おもむろに自分たちの頭を掴み引っ張り、何かを脱ぐようにもぞもぞと動き始めた。そうすると、彼らの皮膚は全身スーツのように脱げ、中からは青白く光る人間を模した得体の知れない生物が出てきた。それらは、人間の皮を脱ぎ捨てると一方向に歩き始めた。ふと上を見ると、そこには空を覆い隠すくらいの船のような物体が浮かんでいて、青白く光る生物はそれに向かって宙を歩いていた。

空に浮かんでいる船からは、歳をとった男性の低い声が聞こえた。なんと言っていたかは覚えていない。ただ、地球上の多くの人間はいずれこうなるということを言っていたような気がする。

 

それが本当なら、私はなんなのだろうか。雨に打たれても眠らず、しかし皮は脱げず。

兄はこれを知っていたのだろうか?私たちの犯した罪はこのことと関係があるのだろうか?

全人類がいずれ空の船に乗り込んで、地面に皮だけが残り、それを死だというのなら私たち兄妹はなぜ彼らを殺しているのだろうか、私たちは何者なんだろうか。